世界史教師が解説「西部戦線異状なし」2022年 Netflixリメイク版【あらすじ・解説等】

管理人
てっちり

元 高校世界史教師

教室での授業では、限られた人数に対してしか歴史を伝えられないことに物足りなさを覚える。
そしてもっと多くの人に歴史の面白さを伝えるために
教師を辞めてネットで世界史関連のコンテンツを配信するようになった。

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こんな人におすすめ

2022年、Netflixでリメイクされた映画

「西部戦線異状なし」

 

あらすじが知りたい」

という人から

 

作者が作品にこめた想いを知りたい」

第一次大戦の時代背景を理解した上で見たい

 

もう少し詳しいことを知りたい

 

というマニアックな人まで楽しめる記事です

この記事からわかること

・作品としての「西部戦線異状なし」

・映画のあらすじ

・作品に込められた、作者の想い

・「西部戦線異状なし」言葉の意味

・【映画がもっと面白くなる】映画の舞台「第一次世界大戦」

 

などを、世界史教師としての立ち場から解説していきたいと思います!

 

この記事を書いた人

てっちり先生
てっちり先生
てっちり

大学では西洋史を専攻し、

卒業後は高校で世界史の教師をつとめました

 

教室での授業では、

限られた人数に対してしか歴史を伝えられず、

物足りなさを覚えました。

 

もっと多くの人に歴史の面白さを伝えるため

高校教師を退職

ネットで世界史関連のコンテンツを配信するようになりました。

 

戦争映画・小説 西部戦線異状なしについて

作品としての「西部戦線異状なし」

西部戦線異状なし」(1929年)は

ドイツの作家レマルクが執筆した小説です

 

場面は第一次世界大戦下のドイツ

ドイツから見て西側

つまりフランスとの戦い(西部戦線)を描いた話です

 

作者自身の従軍経験をもとに、

いち兵士の悲しみについて描いた小説で、

世界的なベストセラーとなりました。

 

この小説は1930年にアメリカで映画化され、

何度かリメイクを繰り返し、

2022年にNetflix版のリメイクが発表されました

 

あらすじ

主人公はドイツの青年パウル

1898年生まれの20歳

 

この小説では

戦場での主人公パウルの感情

ありのままに表現されています。

 

戦場の恐怖

親友の死による悲しみ

戦地で出会った戦友の死

敵兵を殺害したときの葛藤

殺した敵兵に家族がいるとわかったときの罪悪感

すべて失ったあとの虚無感

 

こうした、

ひとりの兵士の感情の起伏をリアルに描いた話なのです

 

さて本題

時代は1918年

第一次世界大戦開始から4年が経過していました

 

敵はイギリス・フランス連合軍で、

さらにアメリカがイギリス・フランスの援軍にかけつけ、

ドイツの敗戦は避けられない状態でした

 

しかしドイツ軍の参謀本部はあきらめず、

若い兵士に無謀な突撃命令をするのでした。

 

そんな中、

パウルとその友人たちはドイツ軍に志願します

彼は学生の身分でしたが、

国家存亡の危機なので、戦わなければ国が滅びます。

 

周りの友人たちも、

「俺がドイツを勝利に導いてやるぜ」

「俺は戦争で活躍できる」

「凱旋したころには自分は英雄だ」

なんていう甘い期待と、

根拠のない自信に満ち溢れながら、

お祭り気分で戦争に向かうのでした

 

しかし戦場は甘くありませんでした

 

ひっきりなしに大砲が着弾し、

毒ガス弾が撃ち込まれるたびにガスマスクを装着し、

運が悪ければ、流れ弾に当たって死んでしまう

いつでも死と隣り合わせでした

 

パウルたちは塹壕に入って身を守るのですが、

フランス軍の激しい砲撃に見舞われ、

パウルは気絶

無残にも、パウルの親友は脚を失って死んでしまいました

 

パウルは戦場で多くの友と出会うのですが、

その友人たちも次々に倒れていきました

 

パウルたちが死に物狂いで戦っている頃、

ドイツ政府の全権大使エルツベルガーが停戦交渉を進めます。

 

しかし敵方のフランスはドイツに強い恨みを抱いており、

生ぬるい条件では停戦を認めてくれません

 

フランスが抱いている「恨み」とは?

第一次世界大戦から40年以上前にさかのぼります

 

フランスは1870年にプロイセン(ドイツ帝国の前身)と戦争

1871年にプロイセン(ドイツ帝国の前身)に敗れ、

首都パリを占領された挙句、

莫大な賠償金を支払い、

領土を奪われました

 

このときの屈辱を忘れまい」として

フランスは政府から市民にいたるまで、

「ドイツに復讐してやる」

という気持ちを抱いていたのでした

 

そんなフランスが、

生半可な条件で停戦を認めるはずがありません。

停戦交渉は長引き、その間にも多くの兵士が戦死しました

 

最終的にドイツは、フランスの提示した厳しい条件をのみ、

1918年11月11日11時をもって停戦する

と約束しました。

みんな安心して国に帰れそうですね!

しかしここで悲劇が訪れます

 

ドイツの将軍(ハゲの人)が兵士たちの前で演説を始めます

そして・・・

「停戦時刻までに最後の突撃を行う!」

「負け犬として帰国するのではなく、最後は勝って締めくくるぞ!」

と言ったのでした

 

脳が筋肉でできているんですかねほんと…

みんな嫌がらなかったんですか?

 

もちろん拒否する兵士もいました

しかし、拒否した兵士は敵前逃亡の罪で銃殺されました

 

このころのパウルは戦友をすべて失い、

心神喪失状態になっていました

 

何を言われようとも何も感じず

ただただ突撃命令に従いました。

 

突撃開始時刻は11月11日10時45分でした

停戦まで15分じゃないですか…

パウルは無心で突撃します

このころのパウルは強くなっており、

敵の塹壕に飛び込み、

数名の兵士を殺害しました。

 

その後、敵の将校と思わしき人物と戦います。

泥にまみれながら彼と戦いますが、

突如うしろから敵兵士が現れます

そして敵兵士の銃剣がパウルの心臓に刺さり、

パウルは命を落としました

 

その瞬間に11月11日11時を迎え、停戦の命令が下りました

パウルは犬死にじゃないですか…

悲しい…

こうして主人公パウルは、不運にも生涯を終えたのです。

 

作品にこめられた作者の想い

作家レマルク

作品「西部戦線異状なし」を通じて、

人の命の重さを伝えたかったのでしょう

 

歴史上の文献や教科書などでは、

「〇〇の戦いでフランス軍が勝った

「この戦争はドイツ軍が負けた

「〇〇をドイツが割譲した」など、

国・組織・団体を主語として、

文章が書かれることが多くありませんか?

 

レマルクはこの流れに逆らい、

国・組織・団体などではなく、

戦場でたたかう一人の「人間」にスポットライトを当てて、

この小説を書いたのでした

 

飛び交う砲弾やガス弾

恐れおののく主人公

 

同い年の親友の死

悲しむ主人公

 

戦場で出会った友の死

悲しむ主人公

 

歴史の中では、

人は「チェスの駒」のように扱われます。

 

しかし「西部戦線異状なし」ではむしろ

人の死や人の感情を中心に描いたのでした。

 

こういった人間ドラマを描くことで、

「人の命の重さ」を読者に伝え、

「戦争はかくも残酷で悲しいものだ」

「この悲劇を忘れてはいけない」

 

というメッセージを、レマルクは残したのでした。

 

「西部戦線異状なし」 意味は?

「西部戦線異状なし」の意味は、

作品の終盤で明かされます

 

冒頭でも述べましたが、

まず、西部戦線とはドイツから見て西側、

フランスとの戦いのことを指します。

「異状なし」は?

「異状なし」というのは、

「西部戦線では膠着状態が続き、両軍とも目立った戦果はなかった」

という意味です

 

第一次世界大戦では、

機関銃や砲撃を防ぐため、

塹壕が築かれました。

 

兵士たちが塹壕にこもって戦うので、

敵兵士を駆逐することがなかなかできず、

両軍とも前に進むのが遅かったのです。

 

敵の領地を奪おうにも数100mほどしか奪えず、

4年間同じような場所で戦い続けたのでした。

 

歴史の教科書や年表では簡潔に

「西部戦線では膠着状態が続き、両軍とも目立った戦果はなかった」

と書かれるかもしれません。

 

しかしその中身を見てみると、

近代兵器が多用され、

両軍合わせて300万人が戦死しているのです。

 

もちろんその300万人の親族や友は深く悲しむでしょう

 

前章でも、

レマルクは国・組織・団体ではなく

ひとりひとりの「人間」を中心に物語を描いた

と述べました。

 

「西部戦線異状なし」というタイトルには、

こんなにもたくさんの人が死に、悲しいできごとがあったのに、

書物では「異状なし(目立った戦果はなかった)」という一言で片づけられてしまう

人の命がこんなにも軽く扱われている

 

そんな社会への皮肉がこめられているのでしょう。

 

【映画がもっと面白くなる】映画の舞台 第一次世界大戦について

近代兵器の登場

第一次世界大戦は

強力な近代兵器が実戦投入された戦争でした

 

作中で描かれているものでいうと、

戦車・装甲車・火炎放射器・毒ガス兵器などですね

特に火炎放射器や毒ガス兵器は、塹壕の攻略に便利でした

 

当時は敵の機関銃や砲弾を防ぐために、

両軍とも塹壕を掘って身を守っていました。

塹壕を攻略するにはもちろん時間がかかります

 

しかし、火炎放射器や毒ガスを用いると

効率的に塹壕を攻略することができます

 

火炎放射器を使うと、

塹壕内にいる敵を焼き尽くしたり、

酸欠状態に追い込むことができます。

 

毒ガスを使うと、

毒ガスは空気よりも比重が重いので、

下に落ちていきます。

これを塹壕で使用すると、

塹壕の中にガスが降りていくわけなんです。

 

毒ガスは兵士が苦しむので、

国際条約で使用禁止になりましたけどね

 

また、登場していないものでいうと、

戦闘機・潜水艦・飛行船などが挙げられますね

 

作中では陸軍の戦闘がメインだったので、

空軍や海軍の兵器はうつっていませんでしたが…

 

どちらにせよ、

これらの兵器がとても強力だったので、

大勢の兵士が亡くなったことに変わりはありません。

 

塹壕戦とファッションのつながり

ドイツ軍の服装をよく見てみましょう

ロングコートを着ていますね?

 

あれはトレンチコートです

トレンチとは「塹壕」という意味です。

 

塹壕内は正直いって冷えます

冷たい空気は比重が重く、下に落ちてきます。

だから、地面よりも下に掘られた塹壕には

冷気がおりて、たまってしまうのです

 

しかも大雨が降ると水がたまってしまうので、

たまらなく寒くなります

 

こうした寒さに対処するために、

トレンチコートがつくられました。

 

ドレンチコートは丈が長く、

太ももまでしっかりぬくもるので、

戦場の兵士から愛用されたのでした

 

現在では、

トレンチコートは冬のファッションアイテムになっています

細身で背が高く見えるので、トレンチコート大好きです!

 

トラックが輸送に使われる

ちょっとマニアックなんですが(笑)

第一次世界大戦ではトラックが輸送手段として使われます

鉄道はどうだったのですか?

もちろん鉄道も輸送手段として優秀です

人や物資を大量に運ぶことができますからね!

 

でも、敵軍から線路にイタズラをされてしまったり、

爆破されたりすると、鉄道は機能しなくなってしまうのです

 

でもトラックなら線路がなくても運べるし、

好きなところに運べるわけなんです

 

そういった点で、トラックは戦争の輸送手段に革命を起こしたともいえます

 

歴史通の細かい気づきですので、聞き流し程度に(笑)

 

総力戦 前線と銃後

映画「西部戦線異状なし」では、

軍需工場で働く女性たちが描かれています。

 

兵士のコートや軍服をミシンで縫っていました

 

このシーンも第一次世界大戦をリアルに表現しています

 

第一次世界大戦は「総力戦」と言われ、

国家のすべての人員を戦争に動員しました

 

男性は兵士として、

女性は兵士ではなく、軍需品の製造を任されていました

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